僕にヒゲが生えていた頃/たもつ
 
 
 
僕にヒゲが生えていた頃
あなたは優しくヒゲを撫でてくれた。
今ではすっかりヒゲは枯れ
ビルなどの建築物が建ち
唇の近くまで人も歩くようになったけれど。
あなたの手のことはあまり思い出せない。
指はだいたいいつも五本くらいあったことを
ぼんやりと覚えているだけで。
手のしわの数や位置
黒子の有無
掌の相や指紋の形など
何も描くことはできない。
でも、正確に記憶していたとしても
それらはあなたそのものではない。
ヒゲを通して伝わってくる
あなたの手のぬくもり
(あなたは決して地肌には触れなかった)
それだけが僕にとっては
あなたのすべてだった。
もう一
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