ウサギの親子スポンジ/鵜飼千代子
 
まあるい墓石に水をかけ清めると
空(くう)の字の彫刻から 遅れ水が流れてくる
丁寧に拭きあげるのだが
涙の跡のように、うっすらと水垢が残ってしまう
墓石用クリーナーとウサギの形の大小のスポンジで
娘と一緒にせっせと磨く
 
普通では落ちないのだから
一度のお参りで何とかしようとせず
根気よくですね
 
と、笑いながら手を動かしていると

 「笑わない!ちゃんとやる!」と
幼稚園で習って来たのか、娘に叱られる 
 
「天彦さん、暑いですねー」と言いながら
六歳児が柄杓で惜しみなく水をかける
 
炎天下では、花立ての水が一日で無くなるだけでなく
切り花の表面全体から水分が蒸発して
茶色く枯れるのではなく 
色鮮やかなドライフラワーのようになるのですね 
などと
今日も変わらず、学んでいる


初出 詩誌「?」第87号 所収



詩誌には掲載されていない、実物のウサギの親子スポンジ
戻る   Point(8)