鬼になった子供(鬼吉と春一番)/板谷みきょう
ぇ。一年なもんだか十年なもんだか。それが屏風山まで届いたんだと。屏風山からせせらぎの峰に続く鬱蒼とした森の中、跳びはねる川魚の匂いも、分かるぐれえ鼻も効く。山向こうの枝に止まった鳥の姿も見える。耳だってどんな遠くの鳴き声だって、聞き分けられる。ちっぽけな虫一匹から、全部の生きモンの気配も体中で感じることができる位になった吉に鳥の鳴き声と「澄乃」の歌が聞こえたんだと。
…ん。なんだべ。…あれ。こ、こん声は…だ、誰の声だ…誰の唄だ。す、澄乃でねえのか。…ああ、俺はなんちゅう、思い違いばしてたんだべ。なんて事してしまったんだ。…な、なんなんだ。この毛むくじゃらの太ってえ腕は。なんだ、この手は。爪が
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