そのひと/……とある蛙
楡の巨木の根元に深くて暗い穴、ジメジメとしたその穴からボーッと発光した球体が風に揺らいで漂い出てゆく。枝先の梟の眼の光りが青く輝く。闇夜のはずだが森のそこここに光る小動物の眼を気にしながら、巨人はゆっくりと起き上がる。頼りは漂う球体の明り。頭上の枝はぬらぬらと濡れ、枝から垂れ落ち、自由落下する夥しい腐敗臭のする液体を避けながら球体の進む方向に走りだす。空は見えない。すべては森の漆黒の絨毯に覆われた屋根に隠されている。
暗闇の中の湿度を感じてただ発光する球体を追って走る。しばらく走った先は森が偶然途切れた草原で夜の空が突然頭上に現われた。
その空に向かって発光した球体はふわふわふわふわ上って行
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