手をめぐる文学的断章/葉leaf
 
ら友の手を握るまでの間に手の中ではいくつもの船が風を蓄える。握手の前に手を新調するつもりで私は手の皮を視線でむいてみる。友の手は一匹の動物のように私の手を握り速度なく疾走する。私の手は握り返すがやはり植物なので葉を散らすように光を散らしてしまう。私は植物と動物の無言に「久しぶり」の言葉を流し込む。互いに手を離し会話が始まると植物と動物は人間の体の一部に戻ってしまう。握手したあとの手を通行する文字たちはもはや原形をとどめていない。私がラーメン屋の戸を開けるとき手は戸を友の手と間違えて崩壊の演技をする。友の手はそれに気づいて笑った。握手することにより私の手と友の手は錯誤を共有できるようになったのだ。

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