イッチャの背中/せかいのせなか
 
のどこにも属していないようにみえた。細身の黒いジーンズのうえでくすんだ濃いオレンジのパーカーが、そのビビッドな色味とは対照的になんの記号にもなっていなかった。そのとき、彼が鳥の名前をあてながら、いつもさみしそうにこちらを振り返った理由がすこしだけわかった気がした。わたしは乗るべき電車まで二十分近くあったにもかかわらず、向かいのホームまで行くことも、彼の携帯に電話することもできなかった。

あれはコサメビタキ、あれはヤブサメ・・・。イッチャ、名前のないイッチャ。やっぱり、わたしもあなたもうまく啼けない鳥なんだ。名前のつけられないあなたの背中を、わたしはいまでもなつかしくおもいだす。


 
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