菊/天野茂典
 

  旅人にはリアス式海岸の風光明媚な観光名所としてしか
  映らなかった、
  草、
  野球ではサードを守ったぼくだったが、
  どこでもがらがらのグランドで声だけはだしていた、
  真夏の汗と、水の匂い
  野に、球
  守って、打つのだーー外野席まで
  見失ってしまったボールのゆくへ、草むらの中の  
  猫の死骸が白骨化していたりする映画ではない現実の、
  守備位置には限度があるのだ、
  打って守って、
  守って打って、
  やがては沖から攻め寄せる三陸海岸大津波
  環太平洋どこまでも世界の淵をさらうのだ  

  
  野に、球
  津波にさらわれたぼくは小さな赤ん坊だった



   
         2004・10・25
   
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