HOME/佐倉 潮
 
飛び出したとか、放り出されたなんてこともなさそうだ。気がつけば根なし草。ランダムウォーカーのように、いつの間にか家を離れてしまい、いつの間にか戻れなくなってしまった俺は、自分家が何処かにまだ在るってことは、疑ったことがない。山の頂かもしれない。湖の底かもしれない。必ずあるんだ。何処かにはね。そこには父も母も、もしかしたら妹も、まだいるかもしれないな。
 空は何重にも雲がはびこって、失恋したばかりの男の心のように、とにかく真っ白だ。あぁ、家が恋しいよ。平屋の青いトタン屋根だった。・・・いや、違う。俺が中学校の時に二階建てに直したんだっけ。全てのピアノの音色がそうであるように、いったんはオクターブを超えて離れたとしても、また元の場所に戻りたい。それは美しい行為だし、俺も美しくなりたい。だけどこの雨は止みそうになくて、家も見つけられず、俺はポケットに手を突っ込んだまま、あてもなく今も歩き続けている。


 
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