柿/月音
明滅する スクランブル交差点
吐き出される人の群れは
ぼろぼろと名のかけらを 落とす
熟れ過ぎた柿を食おうと
台所の明かりをつける
歩道橋の上 夢想する
そろえて置かれた靴
左手で触れると 頼りなく形を変える
もう これは 遅すぎるということだ
さびれた工場の跡地
裸足で缶けりをする 子供のたましいがみえる
刃を差し込むと ぐずぐずと潰れ
実をこそげるように 皮がはがれる
警笛の音がなる
猛然と吹き抜けた 風の嘲笑
握り締める
指の隙間から 滴り落ちる
むしゃぶりつく
噛み砕く
墓標には 慰みの言葉
おかえりなさい
甘くただれた 唇と指先をぬぐって
何事も無かったかのように
取り澄ます
墓標には 哀れみの言葉
いってらっしゃい
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