土蔵の中の子供/豊島ケイトウ
敷地のすぐ南側に土蔵がある
今や歴史はすっかり耄碌し
殆ど零れ落ちた漆喰のそこを
しかし私は依然として
こよなく愛でる
穏やかに晴れた日は
土壁の体温が心地いい
昼下がりには頬を宛がって
日向ぼっこに耽ってもいい
やがて心音を聴くだろう
土蔵だって照れくさいのだ
私の頬の感触が
一癖も二癖もある扉を
力いっぱいこじ開けて
枯れ枝で鼠返しを叩きながら
おおい と呼びかける
籐椅子に掛け軸に
篩に鉢植えに呼びかける
隠れん坊を続けたかった私は
大人になるずっと前に
永遠の子供を閉じ込めたのだ
おおい
もういいからさあ
出てこいよお
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