中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
えますが」
「冗談は顔だけにしといてね」
 先輩が笑うと私も自然と声を上げて微笑んだ。確かに先輩は、二十一歳の頃のあどけなさが消え、女性として成熟していた。私も窓に映る自分の顔を見てみると、確かに私も十九歳の頃の面影が薄れてはいたが、顔つきや心は其の頃のままだった。

 先輩が服を着、私がトレイを調理場へ持って行き、後片付けを終え、私達二人が白亜の巨城を出てふと其の外観を見上げてみると、衝撃のあまり、声を上げる事もできなかった。なんと、白亜の巨城の外観は何百年も経過した様に風化し、朽ち果てており、至るところに苔が生え、蜘蛛の巣が張っていたのだった。
「…どういう事? 昨日此処に来た時には
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