あの子のこと/番田 
 

魚が釣れた
私は食べる
火で 焼いて
魚を 食べる
私の口で
魚の 体を


皿の上に並べられた魚を
ごはんと一緒に食べるとき
魚の目は どこを見ているのだろう
乾いた体に 醤油を浴びせかけられながら
みそ汁で その味を口の中で 混ぜ合わせる
海の中の世界を頭に浮かべる


靴を玄関に揃えると
米を研ぎ直して 出て行った
あれは多分幽霊なんだと
男は 一人で 見ていた
バナナを食いながら 見ていた
ゲームをやりながら 耳にした


未知との遭遇に憧れた少年だった頃は
目にする物は何もかもが 光に溢れていて
私には 魚の鱗のようにも 思えたものだけれど
コップにコーヒーを入れ直しては 行ってしまう
何もしらない少年の顔がそこに浮かべられている
流れるコーヒーが排水溝に黒い筋を作りだしている


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