夢(仮題)/佐倉 潮
かも。僕の意識と彼女の姿は、腰のあたりから徐々にはっきりとしだして、最後、女の顔はまるで集積化された電子回路のように、小さな皺の一つ一つまで何らかの意味を持っていた。女は言った。
「ねえ、土台の無い塔はありえないけど、頂きの無い塔は、塔では無い。あなたは一体どちらがいいの?」
僕が答えあぐねていると女は笑った。いつの間にかテーブルの上にはコーヒーの隣に事務用品が置かれていた。何本かのボールペン、スティックのり、ハサミ、ホッチキス。女はホッチキスを左手に取ると、カチリ・カチリと何かを綴じ始めた。それは僕の履歴書だったり、僕の書いた詩の断片だったり、小さな頃に住んでいた町の景色だったりした。
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