浦島太郎の話/たもつ
浦島太郎は海を見ていた
浜辺で膝を抱え
亀が海から来るのを待っていた
まだ青年だった
衣服から露出している腕や脚は
しなやかな筋肉で覆われていた
亀をいじめそうな腕白な子どもたちは
何度も浦島太郎の前を走って行ったけれど
亀が現れることはなかった
子どもたちは大人になり
それぞれの家庭を持った
それでも浦島太郎は一人で亀を待ち続けた
そうしているうちに髪も鬚も白くなった
かつての子どもたちの孫が
今では同じように目の前を走っていく
そして、いつもの浜辺で
ひっそりと息を引き取った
身寄りが無いので
村人たちによって埋葬された
また駄目だったか、と
絵本作家はため息をついて
新しい浦島太郎を描き始めた
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