ヴォルガ考/吉岡ペペロ
 
おんなとわたしもまた

時間や空間や生命のいちぶをなした

ちいさな文明にちがいなかった


川は文明のゆりかごだ

ヴォルガをみつめていてそんなことを考えていた

青と灰いろにそめられた川景色は

ひとびとの乱痴気騒ぎと

おんなじようにちぎれているようだった

青にちぎれた妖精たちが

灰いろの不穏を藍色にかえてゆらしていた

となりのおんなが川をみつめている

川はどうやらみつめられるためにだけ存在している

おんなはなにをみつめているのだろう

さっき視界にはいったばかりの

わたしとの十年後をかんがえている

川は文明のゆりかごだ


おんなとわたしもまた

時間や空間や生命のいちぶをなした

ちいさな文明にちがいなかった





戻る   Point(6)