黄昏の比率 / ****'01/小野 一縷
 
戦地へ向かう兵士に 笑顔で
陸橋の上から 子供達が手を振っている


そういえば
休憩を挟んで8時間 流れ作業で造っていたんだ
いろんな音の いろんな色の まじないごとを目的別に
染み込んで消えなくなった黒い手の皺の数

やっと聞けた
安堵と諦めを絡めて工場棟から漂ってくる 足音とチャイム


思い出した
真緑に濁った深海の底に沈んだ巻貝が
希望を込めて手放した泡粒の為に
夜を低く海へ触れるほど低く呼び寄せて
漆黒の中へ小さな気泡が割れて散って
世界中の海の波は一斉に静まって
波間へ静かに舞う希望の細やかな飛沫には 
祈りに似た厳かな響があったこと


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