イスコロガシの話/たもつ
 
 
 
世界地図を描くと
いつもはみ出してしまう
そんな遠くの大陸に広がる
乾燥した椅子地帯では
今年もイスコロガシの
産卵時期をむかえている

普段、イスコロガシは椅子を餌としているが
この時期になると
六本足のうち後ろの二本を器用に使い
逆立ちするような格好で
きれいな球状になるまで椅子を転がす

最後に椅子球の上部にくぼみを作り
そこに卵を数個産みつけ
背もたれの部分で蓋をする
卵は数日で孵化し
幼虫は自分を取り囲む椅子を食べて成長し
やがてさなぎになり
成虫の姿になると椅子球の中から出てくる

イスコロガシの椅子を転がす音は
季節風に乗って世界中へと運ばれる
寂しいとき
耳を澄ますとそのコロコロという音が
ふと聞こえてくる
 
 
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