雨の日に傘をさして/落とし子
 
古い傘のボタン押すと
引っ掛かりながら
ゆっくり開いた。
一瞬、自分と重なって
気付くと信号は青だ。
さあ、雨のなかに出て行こう。
晴れの日と同じには
うまく歩けないけど。

土砂降りのなか
仰向けにねころんで
雨水を口に溜めて死ぬ、なんて
そんな子どもじみた想像の
余地はもう無い。
傘をさして
一歩前に出よう。
信号の向こうには
何も無い、
誰もいないかもしれないけど、
それを確かめるぐらいは。

一年ぶりに開いた傘が、
僕の背中を押してくれる。
今日のこの雨は止んでも
いつかまた降りだして
街は静かになるだろう。
その頃には
また外に出て
今度は普通に
傘をさせるだろうか。
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