中編小説 文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
価なスーツを着、左手の薬指には彼女との結婚指輪をしている僕を乗せた飛行機は羽田空港に到着し、外の入り口に止まっていた一台の黒塗りの外国車に、とある雑誌の記者に誘導されて乗り込み、都内某所のスタジオへやって来た。僕の表情は自分でも分かるぐらい口元が緩んでいたに違いない。そのまま雑誌に載せるセットの椅子に勧められて座った。僕は静かに目を瞑り、眼球の生暖かい熱を瞼に感じていた。
やがて奥に下がっているスタッフ達が次々と挨拶をし始めた。
「お早うございます」
僕はゆっくりと瞼を開けると、だらしなく右手を挙げてやって来る一人の男性がいた。男性は、僕の目を見据えたまま、二人だけの世界で見せたあの笑顔のまま僕の向かいの椅子に座り、挨拶を交わし、握手を求めてきた。対談が始まると、余計な世間話は話さずに、笑顔の僕は突然こう話を切り出した。
「実はですね、以前こんな不思議な夢を見たことがあるんですよ…」
了 2008年晩秋
戻る 編 削 Point(0)