そこらへんにいくらでもいる人/豊島ケイトウ
ゆで加減に失敗した海鮮パスタを食べていると玄関のチャイムが鳴って、ますます気分が滅入った。お届け物でーす。ドアを開けるなり、男性宅配員の間延びした声とともに――これはなんだろうか――賞状などをしまっておくような丸筒を渡された。これはなんですか? 私は実際そう聞き返したが、男性宅配員は無言のままサインを要求して、さっさと帰ってしまった。私は、とりあえず見知らぬ差出人からの郵便物を無視して食事に戻った。テレビでは無名の俳優同士が舌をからみつけ合ういびつなキスシーンを演じていた。母が生きていればきっとこんなとき、あらあら真っ昼間からなんなの、などと貴婦人ぶった小言をはさむだろうなと思い、少しだけ淋しい
[次のページ]
戻る 編 削 Point(15)