大内峠から/……とある蛙
 
大内峠から徒歩で
大内宿の街道往還に出たとき

秋とは言え、紅葉も落ちかけの季節は
旅人の心も体も
芯から萎えさせ冷たくさせる。
街道沿いの落ち葉を踏み締め
漸く視界が開けたところは大内宿
ゆるやかな傾斜の下り坂に
茅葺の宿が立ち並ぶ

旅人は心底ほっとする。
何度も通った南山通り
それでも峠越えは一苦労。
日光今市までもまだ遠い

山々の紅葉はすでに朽ち欠けようとしていた。
紅というよりは山の頂きまで茶色の山襞
峠を越えて程なく
日没前に宿場にたどり着いた旅人たちは
一様にほっとしている。

このあたりは山々に囲まれており、
冬はとことん冷える山裾
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