カクテルのための三篇/渡 ひろこ
 
<ブラッディ・マリ―>


ブラッディ・マリーと君の唇の色が同じだから、

どちらに口をつけようか迷っている。

君は何のためらいもなく赤い液体を飲み干す。

重なったその色が乾く前に、僕も味わってもいいかい…?


<X-Y-Z>


君は都合よく俺の傍にいてくれると思っていた

バーテンダーのステアと同じように

ゆっくりと君はかぶりをふって、オレンジ色のカクテルを指差す

「X-Y-Z」。これで最後か…。

やけに甘ったるい味が、君の髪の香りと混ざり合い

ピリオドを打つ位置がいまでも定まらない


<kiss of fire>


温められた皿がテーブルに置かれている

「私を彩って。そして汚して…。」と上気した白さで語りかけてくる

アンティパストはまだ出来あがらない

徐々に冷めて青白くなっていくなめらかな手触り

思わず飲みかけのkiss of fireで、赤い抱擁を注いでしまった…。






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