ハエの話/たもつ
ハエが世界を一周した
けれどとても小さかったので
誰も気づかなかった
ハエは自分の冒険を書き綴った
ジャングルの中で極彩色の鳥の
くちばしから逃げ回った日々を
港のコンテナの陰でじっとして
凄まじい嵐をやり過ごしたことを
けれど字がとても小さかったので
誰も読めなかった
今度はきちんと読めるように
拡大して印刷してみた
けれどハエの言葉など
誰も知らなかった
おまえは人間にでもなったつもりか
と仲間のハエにからかわれた
挙句の果てには人に殺虫剤を吹きかけられ
追い払われる始末だった
ハエは力いっぱい飛んだけれど
やがて力尽き
草の上で輝く朝露の中へと落ちた
月に行く夢を見ていた
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