安らぐひと/恋月 ぴの
 
うつろな視界の外側で小鳥の囀る気配
ひとしきり肩の上を行ったり来たり
動こうとせぬ私の様子をいぶかしく感じたのか
右の頬を軽く啄み樹海の奥へと飛び去った

時の感覚を失う
それがこんなにも安らぐとは想像だにしなかった

色鮮やかな木の葉が音もなく舞い散るように
昼とも夜とも知れぬ只中に漂い
時折私の近くを通り過ぎる獣たちの目に映るのは

あるがままに総てを委ねた私の姿

いつしか夜になっているようだった
晩秋の夜
穢れない満月の夜

日に日に失っていく意識で辛うじて捕らえた一羽の梟
朽ち果て行く姿に弔意でも表しているつもりなのか
向かい側の梢に止まり夜通し私を見つめていた

何も思い出せない
思い出さない

いずれ今年最初の雪が熊笹の繁る大地を白く覆い
感謝の念を書き記した手帳は読まれるあてもないままに
ゆっくりと
そして安らかと朽ちる



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