十一月の童話/salco
 
幸せ


孤児院住まいの見習いウエイトレスは
真っ赤な口紅のついたコップを載せた
ステンレスの盆を厨房の隅にそっと置くと
裏口から同じくらいにそっと出た
ダイアモンドとマスカラのお客はまだ
ハエが浮かんでいたと喚いていた
少女までもを死んだハエのように見た客は


漢字だらけの通りを人波に逆らって、少女は
もうどこへも帰れないと思いました
陽気で苛酷な街にいて
自分は幸せの仮面さえ持ち合わせていないのでした

泣きじゃっくりに息が切れて佇んだのは
海辺の公園の噴水前
月曜日の夕暮れ時、人影はみな
家へ家へと踵を返す頃合いです

そこで少女は一人の浮浪者に
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