椅子/裕樹
 

 彼は物憂げな顔で外を見ていた
 
 彼に話しかけるものは
 いたのかいないのか
 私には記憶がない
 ある日
 椅子は片付けられていていた
 古くて危ないからと
 店主は言う
 青年の姿はどこにもなかった
 店主のいれたコーヒーを飲みながら
 私はもう青年のことを忘れていた

 居場所など
 どこでもよかったんだよね
 と
 後ろの席で声がする
 何の話であったのかはわからないが
 私はだがこう心で反論する

 きっと
 彼にとって居場所は一つだったのだろう
 どこでもよい
 わけもなかったのだろう

 と



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