カメラチック・ワーズ #6 - 訓練/佐倉 潮
まだ冷え切った館内に、朝九時を告げるチャイムが
流れた。つづけざま、非常警報ベルが鳴動を開始した。
その音を合図にフロアにいる者たちはみな申し合わせ
たように、作業帽を手に取って立ち上がった。気の早
い者は既にそれをかぶっていた。だが突っ立ったまま
それ以上誰も動こうとはしない。
「121工場の・・・一階動力室から・・・出火。全員速や
かに避難して下さい」館内放送が流れた。けれど、依
然としてフロアから出ようとする者はいない。ややも
するとみな手持ち無沙汰な顔をして、背伸びをしたり
机のまわりをうろうろしたり。そのうちに、ようやく
伝令係りの若い男が扉を開けて入ってき
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