別れの言葉/たもつ
見たことのない言葉で
あなたと話す
関係のある足音と
関係のない足音の狭間で
時々、古い橋の匂いがする
目を凝らすと橋の形はあるのに
渡る人々のため息が聞こえてこない
もう誰にも必要とされない橋がある
そのことだけが事実としてある
目の前を冷たくなったタイヤが
ひとつ転がっていく、まだ
車の一部のつもりでいるらしい
私たちは話した
空調の室外機から
飛び降りた時の幼い衝動を
木の枝についていた貝殻虫を
指でこそいだ日の袖の長さを
本当はもっと
大切な話をしていたはずなのに
あなたが見つからない
あなたと探すけれど
あなたがいないので
いつまでたっても見つからない
あきらめて帰ろうと思っても
あなたがいないので
お別れの言葉も言えない
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