薄幸と的/木屋 亞万
 
寒くなってくると幸せが細く薄くなっていく
すこしずつ、少しずつ
朝と夜の冷え込みが幸せをすかすかにして
ちょっとした風や接触で
うすく、薄くなってしまう

何かの弾みに急に寒さが押し寄せてきたら
それこそ生命活動に支障をきたすくらいに薄幸になってしまう
もうそれが幸せと呼べるのかもわからないくらい

その平べったい幸せを執拗に狙い続けて寒さが攻めてくる
他にもっと厚みのある幸せがあちこちに転がっているはずなのに
薄く小さなこの身体の奥底深くにしまってあるささやかな薄幸めがけて
冷たい風が吹き込んでくる

涙を流してしまいたいほどにむなしい気持ちになっても
肝心の涙は
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