泣き腫らした家/泣くまでの経緯/豊島ケイトウ
 
な夕日は――
 その家にある一等の財産だ



 「泣くまでの経緯」

 思い返してみれば
 鬱蒼とした祈りの世界から
 ようやく一人で生まれたのだ
 しかしなんだ
 この体たらくときたら
 目も当てられぬ

 あるいは
 教育がいけなかったのか
 孤独のてにをはを知らぬ者が
 胡坐をかいたまま示した
 この国の教育

 昨夜テレビを見ていたら
 しかめっ面の政治評論家が
 実は猛禽類に育てられたのだ
 などと――
 いかにも誇らしそうだった

 一夜漬けで築いた人垣を
 ベルリンの壁とうそぶくところに
 僕はおそるおそるうずくまって
 生まれてはじめて静かに泣いた

 長い長い夜が明けるまで

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