バベル/リンネ
見知らぬ集合住宅の最上階である。なぜか全くの無音が続いている。どれだけ高い場所にあるのだろう。建物のまわりには、さっぱり何も見えない。目が乾燥していて、視界がかすれる。左右には一つずつドアがある。どうやら階段を挟んで二棟の建物が繋がっている構造らしい。それにしても空が近い。生ぬるい風が吹いたり止んだりしていて、私にはそれが空の息遣いのように感じた。そう考えると、実に気持ちが悪い。しだいにその息遣いが荒くなってくる。うっすらと、あえぐ音も聞こえてきた。汗ばんだ体臭が感じられ、今にも何かが襲い掛かってきそうな具合である。私は逃げるように、よろよろと階段を下りはじめた。からだがセロファンのように軽く、
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