カメラチック・ワーズ #2 - ひさしの下/佐倉 潮
金物屋のひさしは低く、店の奥行が薄暗き影を曳いている。
看板に金物屋と称してはいるが、店には鍋、ボウルやらと一緒くたに
タオルにモップ、ティッシュ、それにエプロンといった日用品が
一通り並べられている。客の入りは、ごく少ない。
店を切り盛りしている老夫婦が、まだ達者に動けるので
それら品物が埃をかぶることはないが、
どれもこれも新しいとはとうてい言えない。
老夫婦には子供が一人いて、その子は白痴だった。
晴れた日にアー・ウーと声を上げることもあったが
たいていは何も言わず、ひさしの下からこころもち上目遣いで
無表情にじっと通りを眺めた。
老夫婦の倍ほどもある背格好のその子供は、だが決して
ひさしから外へは出ようとしなかった。
店は8時半に開いて、6時には閉められる。日曜が定休日。
もちろん盆暮れもある。その時は下ろされたシャッターに半紙が張られ
店主の手書きで、休み中の期間を記すのがいつもの慣わしになっている。
− Under the eaves
Cameratic Words #2
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