カメラチック・ワーズ #1 - 休息/佐倉 潮
春の夕暮れが町を訪れていた。
枝豆色の自転車でクロールして町を流せば
視界に映るものは全て、よく知っているようで
何も知らなかったような
だまし絵のような道のりだった。
裏路地を駅に向かう途中で、ペタンコ姿の鯉三匹と出会った。
五月五日を四日過ぎて、空の海から屋根の下へ
釣り降ろされた躯体は、ベランダの物干し竿に二つ折りに吊るされて
風の滴も、はや乾ききっていた。
大きな目ん玉は嘆く色も浮かべず
赤青黒の親子鯉は再び休息の時期を迎えようとしていた。
古びた町の影が静かにその身に溶け込んでいった。
− Rest
Cameratic Words #1
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