そして冬/瀬崎 虎彦
 
であった。その緑とこうして分かれ、その緑が世話もされずに枯れ果てていくことは、あたしの責任の埒外にある。まさか鉢植えを貰って帰るわけにも行かない。分かれはいつも場所に記憶を残して、その残像が悲しみを運んでくるので、あたしは何も思い出さないようにしようとする。
 ハンドバッグを手に取り、あたしは玄関へ向かう。コウイチは追ってこなかった。彼も本当は分かっていて、心のどこかで安心している。ブルガリのオムニアの香りにも飽いた頃だったろう。玄関のドアが閉まる。エレベーターを呼ぶ。エレベーターのドアが開き、閉じる。マンションのエントランスの床は、出入りする人々の靴底が運び込んだ雨のしずくで濡れていた。冬が来る。
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