軽妙なるクロニクル/豊島ケイトウ
生まれたばかり――
あまりにもまぶしかったので
まぶしい と
叫んだはずなのだったが
揺籃期――
プロレタリア文学だと称する
ひなびた小説を口に入れるが
不味くてすぐに吐き出す
年端も行かぬ頃――
ボタンを押し間違えて
エレベーターの向かった先に
鬱蒼とした女の人がいた
ここはかつて赤線だったのよ
そう言って僕の頬を撫でた
成人式を迎えて――
やもめのヤモリと知り合い
メールアドレスを交換した夜
さっそく告白される
そして今現在――
純真無垢なる圏外に向かって
ギアをトップに入れる
父親が血相を変えて
頼むから左には行くなと叫ぶ
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