ハナアブの丘/石田 圭太
 

ハナアブのはねを千切って
裏返すと コメツキ虫のように跳ねた
しばらくすると独楽(こま)のようにその場所を回転していたが
捨てた記憶もないのに 朝になると消えた
僕らは身体を突き合わせる時
背中の辺りにぽっかりと開いた穴のようなものを見付ける
そして それをいいこいいこと撫ぜられながら
コメツキ虫のように跳ねた

じいさんにそのようにして遊ぶと教わっていた
何かが繋がっているのだ


千切ったはねが元には戻らないことを知っていたので
世界を覗きこんだ時
人は一人も飛んでいなかった
棒きれで囲んで
しきりに過去のひだまりに煙突を組み立てていた
出来あがってゆく町並みには
「ひだまりの丘」という名前が与えられ
半世紀も過ぎる頃には 古い町並みと呼ばれるようになっていた
下から煙突を覗きみれば 今にも届きそうな 空
組み立てた建物は壊しにくいが
組み立てた人生は壊しやすい
はねが
失われていたからだった
よたよたとその場所を辿っていくと
人は
捨てた記憶もないのに 朝になると消えた




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