9月、10月/佐倉 潮
9月
かなしみがいくつかの言葉をかりて
生活の足元にまでやってきた
そいつらの化けの皮をはぐことはやめて
砂のように 乾いてゆくのを
見つめていたい
ただ今は秋の気配だけが待ちどおしく
どこか子供が 家で
プラモデルでも作る日があればいいな
あたまに描く風が止むと 時がとまる
僕はすこし 齢老いる
かざりのない模型が途中のままに
置かれている
+
夜話
困ったことに戦争がおきたので
その夜半「ぼん」という音は
みんながみんな聞いたのだけど
困ったことに「ぼん」を聞いたので
その夜半伝えるひともうなずくひとも
みんなみんないなくなりました
+
10月
書けば書くほど余白のふえてゆくノート
ぼくは手を休め 少しのとき空を眺める
うすい雲に耳たぶを寄せる
秋のためいきと 外国船の汽笛と
とりちがえないように
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