シネマトラジック/黒川排除 (oldsoup)
わたしと わたしとはまったく縁のない十数人のよそびとたちは皆押し黙って沈痛な面持ちをして バスの中にそれほど窮屈でないにしろごみごみと固まってひとところからひとところへ運ばれる途中であった わたしは豪勢な皮のカバーをかけた貧相な内容の本をこれといった愉悦もなく読んでいた 隣には肥満を極めた女性が座っているというよりはただそこに在った 左斜め前には虚無僧がいてとても日本語とは思えぬ暗い言葉を延々と繋いでいたし その一つ前の席には会社帰りと思われる女がメモ帳を片手に必死で何かを筆記していた 中央付近で吊り革につかまっている男は右ポケットにサバイバルナイフのようなものを忍ばせているに違いないし その様子
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)