ゆるやかな生活/豊島ケイトウ
辞職願には「一身上の都合」とだけつつがなく書いたものの、本当の理由は「生きることによる倦怠感」であった。生きる、という本質的な目的がわたしの中で、ピントの合わない眼鏡をかけているように、急にぼやけてきたのだ。
帰宅すると、祐輔が「亜季ちゃん、おかえりー」といいながら、わたしのもとに走り寄ってきた。
「どこ行ってたのー?」
「パチンコ」
わたしはそっけなく答え、三万円と引き換えに手に入れたマルボロを一本、口にくわえて火をつける。
「煙草、くちゃい、くちゃい」
祐輔は換気扇のひもを引っ張り、そして料理のつづきに戻った。
しばらくして今夜のメニューが食卓に並んだ。黒焦げの目玉焼き
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