鏡、三題/佐倉 潮
 

■1


 少女は握る手鏡に
 映した顔を
 正面から
 斜めから
 上目使い
 下目使い
 順ぐりに眺めまわしたあとで
 呟きました

「こんなの あたしの顔じゃない
 こんなの あたしの鏡じゃない」

 その日から ずっと
 あの手鏡
 みなしごのまま



■2


 女の姿見は
 どこもかしこも真っ黒で
 何も見えないのです

 だけどその漆黒に
 体を寄せて 女は
 真剣なまなざし
 オーデコロンなど
 首筋や胸のあたりに吹き付け
 出かける
 日々

 匂いを映す鏡
 それが最後に
 別れた男からの
 最後の
 プレゼント 



■3


 世界でいちばん大きな鏡
 それは 空です
 見上げても大きすぎて
 人の姿は
 映りません

 こころだけ 静かに
 映しています



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