初雪/佐倉 潮
と向こうから、遠く先までへと、
続いてゆく道があり、自らが永遠に旅の途中だったと
知る。歩みを止めて、しばし茫然と前後を見渡した。
この三十年近く、自分が何をして、何をしようとして
きたのか、そんな事々が頭をよぎった。描きたかった
感情も、感情に昇華されなかった風景も、いまや僕を
通り過ぎ、過去の轍の中へと消えてしまった。それら
の後に残されたのは「それでも生きている」という、
うすぼんやりとした苦い感覚だった。
「家へ帰るんだ」主人公がそう語ったラストシーンを
僕は思い出した。再び歩き始める。みぞれ混じりの雪
が、いつしか粉雪へと変わっていた。彼は約束を果た
した。エンドロールが流れる十分前に。僕は、あんな
にうまくやれないよ。でも今夜、帰るだろう。つつま
しやかな歴史の道からも外れてひとり、僕だけの足跡
をふむ場所へ。
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