初雪/佐倉 潮
年の瀬も押し詰まった一日の終わり、僕は故郷のあ
る地方都市で、レイトショーのチケットを買った。ビ
ロード張りの椅子の上で二時間余りを過ごした後、映
画館から外へ出てみれば、夜空からみぞれ混じりの雪
が、こぼれ落ちていた。傘を持たず来た僕は、首をす
くめ、早足で家路を急いだ。風は吹いておらず、それ
でも寒さはひとしおだったけれど、初雪が薄化粧を町
に施したおかげで、夜が、すこし明るくなった。
気づけば僕が行く道はすでに、誰かの足跡と自転車
の轍とで、導かれていた。振り返ると、僕が歩いてき
た道もまた、人々の痕跡と一体となって、生活のしる
しを刻んでいた。ずっと向
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