炭酸水の海/さつき
シュワシュワと無音の時計の一秒一分一時間を
見ていた
見ていた
見ていた
奇声と罵声といくつかの睦言をすり抜けていく十字路で
見ていた
見ていた
見ていた
耳の奥に響く血流が早く早く先へ遠くへ私を駆り立てて
歩いて歩いて歩いて行こうとぶつかってつまづいてよろけて立ち止まり
鳩尾の心音とネオンに照らされた白い息に耳を掴まれ数秒間の記憶障害
膝の間に冷えた足先を突っ込んでそのまま毛布が剥がされるまでずっと
合わせた両手に自分の生を感じて古びたピンクの傘をたたんでずっと
よく冷えて溶けたガラスをそっと翳せば鋭い闇空に牡丹雪とため息
マニュアルと契約書と処方箋で膨らんでくずれた茶色の鞄は
両手から溢れる睡眠薬と安定剤と少々の未来と引き換えて空っぽになった
ゆっくり磨いて磨いて落とした鏡の欠片に映り込んだのは
狭い店内と小さなテーブルと無口な店員とカーペンターズと
端が焦げたオムライスと向かいの煙草と私のメロンソーダ
と、君
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