夏には蝉 秋には蟋蟀/板谷みきょう
 


けれども本当は世界が終わる前に先に自分が終わるという現実を見ないで1フロアーの部屋で築き上げた世界を歌にして歌えるのはあと何年なんだい?

愛とか恋を歌えるのはほんの短い間のことなんだ。

何とか川の上流に辿り着いてようやく産卵を済ませボロボロの鱗に白く濁った体を川岸に浮かばせて息絶えた鮭の姿を見てきたばかりだからなんだな

顔馴染みの君たちが仲良くするのは悪い訳じゃない。あの夏の日の煩い位に鳴いていた蝉の歌をほっちゃれとなって息も絶え絶えな鮭が、懐古しながら懐疑しているだけなのだ。

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