キス/吉岡ペペロ
んのかなあ、あれ、やぶれてない、
さいごのページは
彼女の記憶がつくりあげていたようだ
幼稚園にも行ってみた
その近くの公園でふたりで木々を見上げていた
ぼくの住んでいたマンションは改装中だった
管理人さんに昔住んでいたんだとお願いして
うえまであがらせてもらった
たのしい、たのしい、
彼女はぼくになんどもささやいていた
家々の庭先から花や植木がこぼれていた
ずっと手をふれあわせて歩いていた
すれ違った小学生の女の子たちが
ぼくらをひそひそと笑った
足がいたくて喫茶店にはいった
砂糖つぼの蓋にどんぐりの取っ手がついていた
気づかれないふりをしながら
ぼくらはなんどもキスをした
このあと悲しくなることくらい
ぼくらはとっくの昔から知っていた
生きていた
生きているということに
ぼくらはきっちりと反応しあっていた
それがキスだった
手をふれあわせて歩くということだった
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