爬龍船/楽恵
と喧騒を連れ遠のいていく
そして船が再び戻ってくるまでの一瞬だけ
潮風が止み、海に沈黙が訪れる
そのとき
私は突然、もがれるような激しい痛みを
覚えて痺れ立ち尽くす
頭上を海神の影がゆっくりと通り過ぎる
かつて私のすぐそばにぴったりとあって
いつの間にか引き裂かれ失ったもの
日常忘れていた、あの痛み
そしてその痛みの理由を思い出せないうちに
爬龍船は沖を旋回してこちらに帰ってくる
黒い海神はすぐさま歓声とともに波に沈む
船が歌と踊りを連れ浜に戻って来るまでの
一瞬のうちに
戻る 編 削 Point(8)