そこに笑顔はあるか/乾 加津也
 
じと大声を張りあげる
 とてつもなく長いモップをくじらの腹に押しつけ
 滴りおちる洗剤は風に濾されて痛みに変わる
 頭上を縦にまっすぐ拭いてゆく
 「水拭きは洗剤が機体を損傷させないためにしっかりやれ」
 「うまい乾拭きはふき取るだけじゃない、光沢がでるんだ」

呼び出しがかかる
風速が基準値内におさまり作業の許可がでたらしい
どこからともなくため息とともに
にょろにょろが順々に立ちあがり
マイクロバスでスポットまで移動すると
一列になって機体の底に見えなくなった
夢の仕事は
そんなにょろにょろたちに与える
味気ない餌のようなものだった

仕事に貴賎はなかったがつづきがある
ひとたび足を踏み入れたなら
初心貫徹 誇れる仕事でありつづけること
己の
底深い闇の土手際に笑顔の種を
今日も明日も明後日も
なみだとともに撒きつづけること



フライトは爽快だ
希望もつないで光るだろう
のっぺりも若気の至りも丸ごとのせて
夢のくじらは離陸する

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