骨音 他二篇/豊島ケイトウ
 
ら儲けもの
 梅の地紋入りカワウソでも
 まのあたりにするのでしょう



 「あるノートのこと」

 ぼくは幼い時分に
 ひんやりした川辺で
 一冊のノートを拾った

 その一ページ一ページに
 ぼくはボクの過去をうがった
 ぼくはボクの未来を当てた

 (ときおり目をそむけつつ)

 そこでファンタジーを描き
 たしかな純粋がうずくまり
 多分のうつくしさと
 多少のみにくさは争い合う
 激しくあるいは空しく
 質実にあるいは虚飾的に

 だから親にも友だちにも
 内緒のままだった

 他者から見れば
 全くの空白にすぎないものの
 しかしぼくの持ちうる全てが
 (本当に全てが)
 太古から行く末まで
 あるいは萌芽から枯死まで
 しっかりとつづられていた

 おとなに落ちる手前
 とうとつに気味が悪くなり
 捨ててしまったのだったが

戻る   Point(16)