骨音 他二篇/豊島ケイトウ
「骨音」
その森の中のまぶたは
たいへんうつくしい
背骨を失った世界よりずっと
まぶたに広がる昼下がり
湖のほとりで
老人は 骨を拾う
露の輝く草を分け
降りそそぐ木漏れ日を浴び
無言の言葉をつぶやきながら
ただ
骨を拾うたびごとに
鳴る音は
新しいまぶたを呼び覚ます
老人の手のひらで一つ一つ
ひんやりとやさしい土の下
そこに息づくちいさな祈りは
失われた背骨のことを
知らないまま ただ
た だ
その森の中のまぶたは
もうすぐ夢を見る
うつくしいまぼろしの音たち
[次のページ]
戻る 編 削 Point(16)