巣/リンネ
目を覚ますと、部屋の中に嗅いだことのある匂いが充満していた。どうやらドアの隙間から流れてきているようで、いつからしていたのかは分からなかった。目が痛くなるような甘い匂いだ。時計を見れば、三時である。きっと妻が菓子でも作り始めたに違いない。私はまだぼんやりとした頭で、妻が何を作っているのかを想像し始めた。
カシャカシャと小気味よく擦れ合う金属の音が聞こえる。これは小麦粉をタマゴと混ぜて練り上げる音だろうと思う。しばらくすると、まな板をたたく音が聞こえてくる。ミキサーの回転音が響いてきたところで、ほぼ見当がついた。熟したバナナの甘ったるい匂い。妻が作っているのは
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